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農業をしない人の農地相続|リスク・税金・手放す5つの方法を解説

田中 恵子 / 更新:2026-06-20
農業をしない人の農地相続|リスク・税金・手放す5つの方法を解説
親が遺した田んぼや畑を、農業をする気もないのに相続することになった。正直、こういう相談が私のところに一番多く来ます。結論から言うと、農業をしない人でも農地は相続できます。

ただ、相続できることと「相続して得かどうか」は別の話。固定資産税は毎年かかり、放置すれば近隣トラブルや行政指導の火種になります。

この記事では、農地相続のリスクと税金、そして手放す5つの方法、手続きの順番までまとめました。相続実務を12年やってきた私が、専門家に相談する前の「地図」になるよう書きます。

農業をしない人でも農地相続はできる?基本の考え方

【田畑の相続!農業をしない場合の対処法】「私は農業はしないのですが、親の田畑を相続することになりました。対処法はあるのでしょうか?」司法書士がイラストでわかりやすく解説(安心相続相談室)
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まずここをはっきりさせます。農地は普通の土地と違い、売買や贈与で勝手に手に入れることができません。農地法が権利移動に制限をかけているからです。

でも相続だけは例外。農業をやらない人でも相続そのものは止められません。

農業をしない人の農地相続とは

「農業をしない人の農地相続」とは、農家を継ぐつもりがない相続人が、親などから農地(田・畑)を引き継ぐことを指します。

サラリーマンでも、遠方に住んでいても、農業の経験ゼロでも、相続は発生します。

農地相続が認められる理由と仕組み

通常、農地を取得するには農業委員会の許可が要ります。耕す能力がない人に農地が渡らないようにするためです。

一方、相続は「許可」ではなく「届出」で足ります。農林水産省も、相続による取得は農地法の許可の例外だと明記しています。

サラリーマンでも農地は相続できる

「会社員だから農地は継げないのでは」とよく聞かれますが、心配いりません。職業は関係なく相続できます。

ただし相続した後、農業委員会への届出が必要です。これは後の章で詳しく書きます。

農業をしない人が農地を相続するリスクとデメリット

正直に言うと、農業をしない人にとっての農地相続は、メリットよりリスクのほうが目立ちます。ここは両論併記でごまかさず書きます。

農業をしない人が農地を相続するリスクとデメリット

管理の手間と費用がかかる

農地は放っておけば草が伸び、害虫が湧きます。耕さなくても草刈りは必要です。

遠方なら、年に何度も通うか、業者に委託することになります。委託費は土地の広さで変わるので一概に言えませんが、毎年出ていくお金だと考えてください。

相続税が発生する

農地にも相続税はかかります。相続財産の合計が基礎控除を超えれば、農地の評価額も課税対象です。

申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。これは農地に限らず相続税全般の基本ルールです。

毎年の固定資産税がかかり続ける

相続税は一度きりですが、固定資産税は毎年です。使っていなくても、持っている限り市町村から請求が来ます。

純粋な農地(農用地)は宅地より評価が低く、税負担は比較的軽め。ただし市街地に近い農地は高くなります。区分の話は税金の章で整理します。

放置すると耕作放棄地化・近隣トラブルになる

私が一番注意してほしいのはここです。手間を惜しんで放置すると、農地は「耕作放棄地」になります。

雑草や竹が隣の田畑に侵入すれば、近隣の農家との関係が悪化します。自治体から管理についての指導が入ることもあります。

「いらないから放っておく」が一番損をするパターンです。何もしないことにもコストとリスクがある、と覚えておいてください。

農地相続で起きやすいトラブルと対処法

相続の現場で揉めるポイントは、だいたい決まっています。事務所時代に何度も見てきた典型を挙げます。

農地相続で起きやすいトラブルと対処法

兄弟で意見がまとまらない

「いらない」「売りたい」「先祖の土地は残したい」。兄弟で考えがバラバラだと、遺産分割協議が止まります。

協議がまとまらないと相続登記もできず、結果として後述する登記義務の期限に間に合わなくなる恐れがあります。

手続きが複雑でわからない

農地相続は、普通の不動産より手続きが一つ多い。相続登記に加えて、農業委員会への届出が要るからです。

届出の期限は「権利を取得したことを知った日から10か月以内」。出さないと10万円以下の過料の対象になります。期限が二本立てだと忘れやすいので要注意です。

相続した農地が遠方にあるケース

実家を離れて都市部で暮らす人ほど、遠方の農地に悩まされます。草刈りのたびに帰省するのは現実的ではありません。

このケースで私が勧めるのは、現地の事情に詳しい司法書士や不動産会社に窓口を一本化すること。遠隔でも書類のやり取りで手続きは進められます。

遺産分割協議と代償分割・換価分割の選び方

農地は分けにくい財産です。一筆の田んぼを兄弟で物理的に割るのは現実的ではありません。

そこで使うのが代償分割と換価分割。違いを表にします。

代償分割と換価分割の違い
方法内容向いているケース
代償分割1人が農地を相続し、他の相続人にお金(代償金)を払う農地を残したい・受け継ぐ人が決まっている
換価分割農地を売却し、売却代金を相続人で分ける全員がいらない・現金で公平に分けたい

全員がいらないなら、私は換価分割(売って分ける)が一番もめにくいと考えています。

農業をしない人が農地を手放す方法を比較

田畑を相続したけど農業をしない場合の対処法3選
田畑を相続したけど農業をしない場合の対処法3選

ここが本題です。手放す方法は大きく5つ。先に一覧で全体像をつかんでください。

農地を手放す5つの方法の比較
方法ざっくりの中身向いている人
農地のまま売却農家や農業法人へ売る。農業委員会の許可が必要近くに買い手(農家)がいる
農地転用して売る宅地などに用途を変えて売る。区分により可否が分かれる市街地に近い農地
相続放棄農地を含む全財産を相続しない農地以外にめぼしい財産がない
国庫帰属制度一定の負担金を払い国に引き取ってもらう売れない・引き取り手がない
農地バンク農地中間管理機構に貸し出す手放さず収入を得たい・将来は持ち続けたい

農地のまま売却する

買い手が近隣の農家や農業法人に限られるのが難点。農地を農地として売るには、原則として農業委員会の許可が必要です。

買い手のあてがあるなら一番すっきりした方法です。あてがないと、ここで止まります。

農地転用して売る

宅地や駐車場などに用途を変えて売る方法です。買い手の幅が一気に広がります。

ただし、どこでも転用できるわけではありません。農地は区分があり、転用しやすさが違います。

農地区分と転用のしやすさ(目安)
区分おおまかな性格転用のしやすさ
農用地区域内農地農業を守るエリア原則不可で難しい
第1種農地良好な農地原則不可
第2種農地市街地化が見込まれる等条件付きで可能
第3種農地市街地にある農地比較的しやすい

自分の農地がどの区分かは、市町村の農業委員会で確認できます。まずここを調べないと話が進みません。

相続放棄する

農地そのものを相続しない選択です。ただし、これは落とし穴が多い。次の章でまるごと一節を割いて説明します。

先に結論だけ言うと、私は安易な相続放棄は勧めません。

相続土地国庫帰属制度を利用する

2023年4月に始まった制度で、相続した土地を国に引き取ってもらえます。売れない農地の最後の受け皿になり得ます。

ただし要件が厳しく、負担金も必要です。詳細は次章で。

農地バンク(農地中間管理機構)を活用する

手放すのではなく「貸す」選択肢です。農地中間管理機構が借り手との間に入り、農地を貸し付けてくれます。

うまく貸せれば賃料収入になります。さらに、農地バンクへの貸付けは相続税の納税猶予の対象になり得る点も見逃せません。

相続放棄や国庫帰属を選ぶ前に知るべき落とし穴

「いらないなら放棄すればいい」「国に返せばいい」。そう簡単ではありません。ここを知らずに決めると後悔します。

相続放棄や国庫帰属を選ぶ前に知るべき落とし穴

相続放棄しても残る管理責任(民法940条)

見落としがちなのがこれ。相続放棄をしても、現に占有している財産については、次に管理する人に引き渡すまで管理を続ける義務が残ります(民法940条)。

つまり「放棄したから草刈りも不要」とはならない場合がある、ということ。実家の農地を現に管理していた人ほど注意が必要です。

相続放棄は農地以外の財産もすべて失う

相続放棄は「いらない農地だけ捨てる」ことができません。預貯金も実家も、プラスの財産すべてを放棄することになります。

農地以外にめぼしい財産があるなら、放棄は損になりがちです。私の感覚では、放棄が向くのは「借金が多い」「農地以外にめぼしい財産がない」ケースに限られます。

国庫帰属制度の要件・却下事由・負担金の目安

国庫帰属も万能ではありません。建物が建っている土地、担保が付いた土地、境界が不明な土地などは引き取ってもらえません。

さらに、引き取ってもらうには負担金がかかります。手放すのにお金を払う、という発想を持っておいてください。制度の最新の要件と金額は法務省で確認するのが確実です。

農地相続でかかる税金とお金の知識

税金の話は難しく見えますが、押さえどころは4つだけ。順に整理します。

農地相続でかかる税金とお金の知識

農地の評価額の出し方と相続税の試算例

農地の相続税評価は、宅地と同じ計算ではありません。農地の区分ごとに評価方法が分かれます。

区分は「純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地」の4つ。純農地や中間農地は倍率方式、市街地農地は宅地に近い評価(宅地比準方式)になります。

自分の農地の倍率や路線価は、国税庁の財産評価基準書で調べられます。ここを見ないと正確な試算はできません。

相続税・贈与税の納税猶予制度と打ち切りリスク

農業を続ける、または農地バンクに貸し付ける場合、相続税の納税猶予を受けられる可能性があります。

ただし、ここが重要。農業をしないまま持っているだけでは、この制度の対象にならない場合があります。

しかも猶予は「打ち切り」のリスクがある。途中で農地を売ったり転用したりすると、猶予されていた税額に利子税が加わって請求されることがあります。猶予という言葉に飛びつかず、条件を税理士と確認してください。

固定資産税の軽減措置と課税の仕組み

固定資産税は、農地の区分で負担が大きく変わります。一般農地は評価が抑えられ、税負担も比較的軽い。

一方、市街地の農地(市街化区域内)は宅地並みに課税されることがあり、負担が重くなります。請求書の金額に驚いたら、まず自分の農地がどの扱いか確認しましょう。

売却時の譲渡所得税と特別控除

農地を売って利益が出れば、譲渡所得税がかかります。買ったときより高く売れた差額に対する税金です。

農地には特別控除が用意されている場合があります(農地バンクへの譲渡などで一定額の控除が受けられるケースなど)。適用条件は細かいので、売却を決める前に税理士へ相談するのが安全です。

農業をしない人が農地を相続する手続きの流れ

【農地相続の出口戦略】使わない農地はどうなる?相続・売却・貸し出し・活用の方法を税理士が解説!
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ここからは実務です。やることは大きく4ステップ。順番に進めれば迷いません。

農地相続の手続きと期限
ステップやること期限の目安
1必要書類を準備早めに着手
2相続登記相続を知った日から3年以内
3農業委員会へ届出権利取得を知った日から10か月以内
4相続税の申告・納付死亡を知った日の翌日から10か月以内

必要な書類を準備する

被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、遺産分割協議書、農地の登記事項証明書などを揃えます。

戸籍の収集が一番時間を食います。先に動き出して損はありません。

相続登記の手続きをする(2024年義務化・過料リスク)

農地も相続登記の対象です。2024年4月から相続登記は義務化されました。

期限は相続を知った日から3年以内。正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料の対象になります。

見落としやすいのが過去の相続分。義務化前に相続していた農地も、法務省は令和9年3月31日までの登記を案内しています。「昔のことだから関係ない」は通用しません。

農業委員会に届け出る

相続登記とは別に、農地を取得したことを農業委員会へ届け出ます。農地法第3条の3に基づく届出です。

期限は10か月以内、怠れば過料。登記と混同しないよう、二本立てで管理してください。

相続税の申告・納付をおこなう

相続財産が基礎控除を超えるなら、相続税の申告が必要です。期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内。

農地の評価や納税猶予の判断は専門的です。申告が必要そうなら、早めに税理士へ。期限ギリギリの相談は選択肢を狭めます。

農地相続に関するよくある質問

相談現場で実際によく聞かれる質問を、最後にまとめます。

農地相続に関するよくある質問

よくある質問

農地の相続税がかからないようにできる?
完全にゼロにするのは難しいですが、相続財産が基礎控除以下なら相続税はかかりません。農業を続ける、または農地バンクに貸し付ける場合は納税猶予を受けられる可能性があります。ただし農業をしないまま保有するだけでは対象外となる場合があり、猶予は途中の売却・転用で打ち切られるリスクもあります。
農地相続はいつまでにやるべき?
期限が複数あります。相続登記は相続を知った日から3年以内、農業委員会への届出は権利取得を知った日から10か月以内、相続税の申告は死亡を知った日の翌日から10か月以内です。届出を怠ると10万円以下の過料の対象になります。早めに動くのが安全です。
どの専門家に相談すればいい?
相続登記や名義変更は司法書士、相続税の申告や納税猶予の判断は税理士、農地転用や農業委員会への許可申請は行政書士が担当します。誰に何を頼むか迷うときは、まず相続全体を見渡せる司法書士に相談し、必要に応じて税理士・行政書士へつなぐのが現実的です。

最後に一言。農地相続で一番損をするのは「何もせず放置する」ことです。売る・貸す・放棄する、どれを選ぶにしても、まず自分の農地の区分と評価額を調べるところから始めてください。

そこさえ分かれば、専門家への相談が一気にスムーズになります。今日できる一歩は、登記事項証明書を取り寄せ、農業委員会に区分を問い合わせることです。

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田中 恵子

元司法書士事務所スタッフ(相続・不動産登記担当) ・ 農業委員会への転用申請同行経験あり
相続実務サポート歴12年

司法書士事務所での相続手続きサポート経験をもとに、農地相続・転用の実務を一次情報にあたりながら平易な言葉で伝えます。「難しいことを難しいまま書かない」をモットーに、読者が専門家に相談する前の地図づくりを手伝います。

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